栄養素について
2013-07-25
栄養素とは何か、栄養素が不足するとどんな症状が出るか、栄養素をしっかりと補う食事法などについて紹介。栄養素を理解して生活習慣病を予防しましょう!
まいにちを健康的な生活を送るために生活習慣病ガイドなど、さまざまな情報をご提供します。
栄養素の種類 ミネラル(2)
<K:カリウム> 細胞内液の主要なイオンとなり、その約98%が細胞内液中に含まれ、約2%が細胞外に存在しています。細胞胞液の浸透圧や酸・塩基平衡の維持、神経や筋肉の興奮伝導への関与、胃粘膜細胞で酸を分泌するのに必要です。
小腸で吸収され主として尿から排泄されます。筋肉中に比較的満遍なく分布しており、野菜や果物に多く含まれていることから、普通の食生活における1日の摂取量は通常2~3g程度と考えられており不足することはありません。しかし、冠動脈系疾患や高血圧予防を目的として、厚生労働省は1日約3500mg以上を摂取することを推奨しています。
腎不全や血液透析患者では、尿中へのカリウムの排泄が十分に行えなくなるため、高カリウム血症が起こります。カリウムは心筋の動きに関与している重要な物質であり、高度の高カリウム血症では心停止を起こします。
<Mg:マグネシウム> 骨中以外のマグネシウムは亜鉛と同様に約350種類以上の酵素の活性化に関与し、炭水化物、たんぱく質、および脂質をエネルギーに変える働きを促進します。
(1) たんぱく質および遺伝物質の合成を助ける。 (2) アンモニアなどの有害化合物を除去する働きを助ける。 (3) 筋肉の収縮、神経の伝達、骨形成や維持の調節を行う。 (4) 心拍動の調節を助け、不整脈および虚血性心疾患の予防。 (5) ホルモンの分泌、腎臓における蕗酸結石沈着の予防などの作用を有しています。
また、細胞内外のカリウム濃度の比率を調節し不整脈を予防しています。運動、ストレス、カルシウムの補給によってマグネシウムの必要量が増加します。マグネシウムの欠乏は心組織の損傷を増大させることが明らかとなりました。また、マグネシウムは血圧を低下させ、心疾患に対する予防的な役割を持っていることが実証されています。
マグネシウムの摂取不足によって骨の成長が遅延し、骨を維持する働きが阻害され、骨がもろくなり骨折しやすくなります。また、慢性的なマグネシウム摂取不足が2型糖尿病の発症リスクを増加させることも疫学的に証明されており、メタボリックシンドローム発症にも密接にかかわっていることが明らかになっています。
<Ⅰ:ヨウ素> 体内に存在するヨウ素の70~80%が甲状腺に含まれ、ヨウ素は甲状腺ホルモンの構成成分となります。ミネラルにはマンガンと銅なども含まれます。
※高カリウム血症 血清カリウム値は、常に3.5~5.0mEq/L(ミリエクイバレント)の範囲に保たれており、5.5mEq/Lを超えた場合を高カリウム血症という。
※マンガン(Mn) 欠乏症の心配はほとんどないが、高濃度のマンガンは脳炎の発生や進行性認知症を引き起こすという報告もある。
栄養素の種類 ミネラル(1)
ミネラル(minerals、無機質) 約100種類存在する元素のうち、人体の構成元素は約60種類です。そのうちの主要な元素は、酸素(65%)、炭素(18%)、水素(10%)、窒素(3%)であり、これらは、生体および食品中の有機化合物(たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン)や水の構成成分として約96%を占めています。その他の元素は全部合わせて、約4%程度しか存在しません。これらの元素を総称してミネラル(無機質)と呼んでいます。
ミネラルには体内に比較的多く含まれている多量元素と生体内には少量しか存在していない微量元素があります。必須微量元素の共通した生理機能として、電解質としての機能、構造・エネルギー維持機能、金属酵素・触媒としての機能があります。栄養素としての機能を持つ微量元素は、多くの酵素活性やヘモグロビン代謝と密接な関係があり、活性酸素を消去する働きがあります。
※多量元素 ミネラルのほかに、塩素や硫黄などがある。
※微量元素 ミネラルのほかに、コバルト、ニッケル、スズ、ヒ素、バナジウムなどがある。
<Na:ナトリウム> 細胞外液の重要なイオンとなり、休液のpHや浸透圧の調節に関係しています。浮腫は、細胞外液へのナトリウムの貯溜によって引き起こされます。細胞膜では糖、アミノ酸などの輸送にも関与しており、また微量のナトリウムは神経の興奮などに重要な役割を演じています。日本人は日常の食生活で食塩を多く摂取するため、欠乏よりもむしろ過剰摂取に注意すべきミネラルです。
<Ca:カルシウム> 日本人に不足しているミネラルの代表で、99%がリン酸カルシウムとして骨や歯に存在し、残りの1%が血液、リンパ液、筋肉に含まれます。なお、血液中や筋肉に存在する1%のカルシウムがカルシウムイオンとして血液凝固や筋肉収縮、神経伝導、心拍動などに重要な役割を果たしています。 血液中のカルシウム濃度が極端に低下すると、①腸管からのカルシウム吸収率の上昇、②骨からのカルシウム放出量の増加、③腎臓からのカルシウム排泄量の減少という3つの調節機能が働きます。カルシウムは創傷治癒の初期段階における正常な血液凝固作用を助ける成分であると同時に、ホルモンの合成・分泌・活性にも必要です。
しかし、カルシウムの大量摂取は便秘を招きやすく、鉄、亜鉛、マンガンなどの体に不可欠なミネラルの吸収を抑制することがあります。つまり、おかずが多過ぎるたんぱく質過剰の食事や塩分の摂り過ぎ、コーヒー・紅茶などのカフェイン飲料の飲み過ぎは、せっかく摂取したカルシウムを大量に尿中に排泄してしまうことになるのです。
<Fe:鉄> 血色素のヘモグロビンとして赤血球中に65%、筋肉色素のミオグロビンとして10%程度存在しています。22%はたんぱく質と結合した貯蔵性鉄化合物の形で肝臓、脾臓および骨髄に貯蔵されています。潜在性鉄欠乏は若い女性に多く、高齢になると男女とも貧血傾向になります。
妊娠中の貧血は早産および低体重児出産のリスク増大につながり、貧血の母親から生まれた乳児は、生後1年間に貧血を起こすリスクが高いのです。鉄の貯蔵量が十分な場合には吸収率が低下します。健常な人の場合、鉄の吸収率は5~10%程度ですが、貧血の人では吸収率は10~20%に上昇します。鉄はコラーゲンの合成にとっても必要なミネラルであり、子供における鉄欠乏症には、発育障害、注意力散漫、学習やよび記憶力の低下、手と目の運動性の阻害などが現れてきます。
鉄はトランスフェリンという鉄輸送たんぱく質によって血液内を運搬されます。動物性食品に含まれるヘム鉄と植物性食品または動物性食品に含まれる非ヘム鉄がありますが、ヘム鉄の方が吸収率が高くなります。
<Zn :亜鉛> 亜鉛は300種近くの酵素活性の中心(補酵素)として働き、骨や歯の石灰化には必煩の元素です。子どもの成長、脳の発達、精子形成、妊娠の持続、皮膚・毛髪の健康を維持する、免疫増強、インスリンの作用増強、血管の健康、アルコールの分解、活性酸素の無毒化などに関与しています。
体内のあらゆる組織に存在しており、特に目、腎臓、脳、肝臓、皮膚、毛髪、爪、筋肉および男性の生殖組織に多く含まれます。皮膚に最も多く存在し、全体の20%以上を占めています。骨および血液中にも微量存在します。吸収率は約1/3~1/2で、ラクトースおよび動物性たんぱく質は亜鉛の吸収を促進します。
DNAの修復や味覚細胞の新生・交代になくてはならない微量元素です。創傷の治癒ため、皮膚および頭髪の正常な形成にとって必要です。コラーゲンを生成するコラゲナーゼ活性に関与しているため、皮膚および頭髪の正常な形成にとって必要です。さらに、成長ホルモンの機能を維持する働きもあるため、欠乏すると発育障害も起こります。
味覚障害の若い女性の食事内容を分析したところ、嗜好飲料、野菜、乳製品、果物などの摂取量が多いのに対して、亜鉛含有量の多い米、肉、大豆などの摂取量が少ないことがわかりました。亜鉛欠乏により免疫システムが正常に機能せず、結果として疾病を引き起こすことがあります。また、菜食主義者や食物繊維の多い食事を摂る人は亜鉛欠乏を起こすリスクが高く、高齢者や栄養不良の人、糖尿病、肝臓病もリスクが高いのです。比較的少量(50 ~75mg/日)でも毒性が現れます。つまり、亜鉛は不足しても過剰でも免疫機能を低下させます。
※コラーゲン 皮膚だけではなく、人体の全たんぱく質量の3分の1を占めるたんぱく質であり、内臓や血管ならびに骨にも大量のコラーゲンが存在している。
栄養素の種類 ビタミン(2)
水溶性ビタミン ・ビタミンB2 (riboflavin) 一般名はリボフラビンで、特に脂質の代謝に必須のビタミンです。エネルギー代謝、脂肪酸ならびにアミノ酸の合成や脱アミノ反応など、生体内物質代謝に重要な役割を担っており、細胞の再生や成長を促進する働きがあるため、正常な発育には不可欠なビタミンです。ビタミンB1と同様に摂取エネルギーが多いほど必要量も多くなります。ビタミンB2は特に食物の存在下で吸収されやすいので、サプリメントなどを利用する場合は食事中または食直前または食後すぐに服用することが望ましいのです。酸や熱に強いのですが、アルカリや強い光によって容易に分解されるため、ビタミンB2を豊富に含む食物は光を通さない容器に保存し、新鮮な野菜は冷暗所に保存します。
・ビタミンB6 (pyridoxine、pyridoxal、pyridoxamin) 一般名はピリドキシンで、小腸上部でよく吸収され、体内貯蔵箇所は主として筋肉です。ビタミンB6はたんぱく質代謝において、多くの機能を果たします。過剰に摂取しても神経症状が起こります。特徴的な欠乏症として血中ホモシステイン高値などがあります。血中ホモシステイン高値は心血管疾患の危険因子とされています。つまり、ビタミンB6の十分な摂取により心筋梗案など心血管疾患を予防できる可能性があるのです。高たんばく食はビタミンB6欠乏のリスクを著しく高め、厳格な菜食主義者、妊娠中の女性、中程度のアルコールを飲む人、70歳以上の人も欠乏症に陥るリスクが高いのです。水溶性のビタミンでありながら推奨量の100倍以上を摂取した場合には、痙學、知覚認知の変化、記憶機能異常や運動失調などのほか、多くの神経疾患リスクが増大します。安全な最大摂取量は、1日あたり200mgとされています。
・ビタミンB12 (cyanocobalamin) 一般名はコバラミンで、体内では主として肝臓および腎臓に貯蔵され過剰分は尿に排泄されます。ビタミンB12は細胞が正常に代謝するために不可欠であり、ヘモグロビンの合成を助け、核酸の合成に関与しています。特に消化管、骨髄、神経系で重要です。代表的な欠乏症は巨赤芽球性貧血です。アルコールは吸収を阻害します。
※巨赤芽球性貧血 骨髄での血球産生に異常が起こり、容積が正常以上の赤芽球が骨髄中に出現し、無効造血を特徴とする貧血の総称である。この異常は、ビタミンB12や葉酸の欠乏によるDNA合成異常により発症する。
・ナイアシン(niacin) ペラグラという病気の抗ペラグラ因子として発見されました。動物性たんぱく質に多く含まれる必須アミノ酸のトリフトファンから合成されるため、動物性たんぱく質が十分に摂取されている限り欠乏は起こりません。ナイアシンは、体内のすべての細胞でのエネルギー産生や細胞機能維持のために不可欠です。また、ステロイドホルモンの合成、薬物や毒物の代謝、赤血球の形成にも関与しています。
・葉酸(folic acid) 細胞を作るために必要な核酸を合成したり、アミノ酸の代謝に関係しています。また、赤血球を作る作用があるため、特に妊娠中によく見られる巨赤芽球性貧血の治療に有効です。葉酸は空気や熱によって簡単に破壊され、調理のしすぎ(過剰な加熱)や温め直しなどによりかなりの量が失われます。ビタミンB12と同様にDNAおよびRNAの合成に関与しているため、骨髄における赤血球および白血球の形成と成熟にも不可欠で、血漿中の葉酸濃度が低いと骨髄で正常な赤血球を生成できません。さらに、妊婦の葉酸の欠乏は胎児に神経管欠損(無脳症、二分脊椎などの重篤な奇形)を起こすことが明らかとなりました。厚生労働省は妊娠可能な女性は予防を目的として、食品からの葉酸摂取に加えて、400μgの葉酸をサプリメントなどから摂取することを通知しています。なお、葉酸は腸内細菌によって合成されます。また、葉酸は、ある種の心臓病にかかる危険率を低減させたり、結腸がん、直腸がん、子宮顛部がん、肺がんなどの予防にも関与することが明らかとなっています。
※ナイアシン ニコチン酸とニコチン酸アミドという、2つの物質の総称。
※ペラグラ ナイアシンの欠乏症で、舌の先や縁が赤<腫れ、表皮がむけて、舌に亀裂や潰瘍を生じる。食欲不振になって、口腔の痛みを訴える、手、首、背中など、皮膚が露出して光が当たる部分が火傷をしたように赤く腫れる。頭痛、不安、耳鳴り、幻覚などの精神神経症状や下痢などの胃腸症状もともなう。
※DNAとRNA デオキシリボ核酸(DNA)は主に細胞核に存在し、たんぱく質合成に関する情報の保持、細胞分裂によって新しく生まれる細胞への情報伝達に関わっている。リボ核酸(RNA)は、細胞核と細胞質に存在し、あるたんぽく質の合成に必要な部分の情報のみをDNAからコピーしたものである。その働きによって3種類が存在。
・ビタミンC (ascorbic acid) 一般名はアスコルビン酸で、熟、酸素、紫外線に弱いのが特徴であり、新鮮な果物や野菜に多く含まれ、動物性食品にはほとんど含まれていません。喫煙によって多量に消費され、飲酒によっても代謝が早くなります。活性酸素による傷害から組織を守る抗酸化物質です。また、結合組織のたんぱく成分であるコラーゲンの合成および維持に不可欠であり、ほとんどの組織は細胞構造を正常に保つためにビタミンCを必要とします。このためビタミンCは治癒の促進、骨折の修復、挫傷の治癒、歯茎の出血防止などの働きを助けます。
典型的な欠乏症は壊血病です。なお、壊血病の症状はコラーゲン分解を反映するものです。大量摂取してもまったく安全なビタミンであると考えられています。ビタミンCの効果として、鉄の吸収促進、ビタミンEの修復(再利用)などが報告されています。
※壊血病 点状出血、関節痛、感想肌、虚弱、息切れ、歯肉の炎症、筋肉の痙攣、貧血、食欲喪失、感染症などにかかりやすくなるなどの症状を引き起こす疾患。
栄養素の種類 ビタミン(1)
(4) ビタミン(Vitamin)
ビタミンは微量(μg~mg)で動物の栄養を支配し、生体内の代謝を含めた生理機能を潤滑に行わせるのに不可欠な有機化合物です。一部の例外を除き、一般に動物の体内では生合成されないため食事として摂取、あるいは外界から供給しなければならない必須の栄養素です。
ビタミンについては、臨床性欠乏症が有名ですが、現代人のわれわれは、高度に精製された加工食品を食べており、精製や加工・調理の過程で微量栄養素が喪失するために起こることがあります。 また、飲酒や喫煙、ストレスなどの生活習慣によっても体内のビタミンが消耗し、健康人にも潜在性欠乏症は多くみられます。
脂溶性ビタミン ・ビタミンA(retinoi) 一般名はレチノールで、免疫機能、発育および生殖に必要であり、抗酸化物質としても働きます。ビタミンAとして直接食物から摂取するだけではなく、前駆物質(プロビタミンA)であるβ-カロテンを有色野菜から摂取しています。β-カロテンのビタミンAとしての効力は約1/6です。
ビタミンAは動物性食品にのみ存在し、プロビタミンAであるβ-カロテンは食物性食品のみ存在します。β-カロテンなど、カロテノイドは全身に幅広く蓄積され、すべての粘膜・消化管の内壁・肺・尿路および膀胱一皮膚を含む上皮組織(口腔粘膜、喉など)の維持増進に不可欠な役割を果たし、細菌感染によって起こる角質化による組織損耗を予防します。代表的なビタミンAの欠乏症は夜盲症(トリ目)です。
また、ビタミンAには過剰症が存在します。妊娠はじめの3ヵ月に多量のビタミンA (6500μgRE/日)を摂取した場合に胎児奇形が出現したデータをもとに、日本では妊婦の耐容上限量は1500 μgRE/日と定めました。しかし、β-カロテンはいかなる量でも毒性が報告されていません。ただし、アルコールを多く飲む人ではβ-カロテンのサプリメントの使用で肝障害などの副作用が見られることが報告されています。
血中濃度は年齢とともに増加し、75歳以上の高齢者では特に毒性発現のリスクが高くなります。ビタミンAは、粘膜の免疫機能や免疫に関係するその他の細胞などの産生および活性も改善することがわかっており、がんの一次予防として期待されています。また、心筋梗塞のリスクが45%減少し、多量摂取することによって乳癌のリスクが減少することも報告されています。
なお、多くの研究から、β-カロテンの適切な摂取量は6mg/日であることが示されています。禁煙によってビタミンAおよびカロテノイドの濃度は低下し、アルコールの長期飲用者は、血中ビタミンA濃度を低下させ、ビタミンAおよびカロテノイド両方の毒性を高めます。
※臨床性欠乏症 明らかな欠乏症が顕著な状態で、一般に欠乏症という場合には、臨床性欠乏症のことをいう。
脂溶性ビタミン ・ビタミンD (cholecalciferol) 一般名はカルシフェロールです。その名の通り、カルシウムの吸収に関与しています。皮膚には不活性のステロール(プロビタミンD)が存在し、紫外線によってビタミンD3(コレカルシフェロール)に変換されます。日光浴をしている限り、欠乏はまず起こりません。70歳以上の高齢者では欠乏症を発症するリスクが高くなどが見られる。欠乏症では転倒の危険性が高まります。日々の摂取量を増やすことによって、筋肉量の低下を防ぎ、骨の強度を高め骨折を予防できるため、1日10~20μg(400~800IU)を摂取することが推奨されます。
・ビタミンE (tocopherol) 一般名はトコフェロールで、酸化防止作用と活性酸素抑制(老化予防)のビタミンとして有名です。重要な抗酸化物質であり、LDLの参加を防ぎ動脈硬化を予防します。さらに、白内障の予防、がん予防、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経系疾患の進行遅延に有効であるという報告がなされています。ビタミンCとともに摂取するとリサイクルされてその効果が高まることがわかっています。ビタミンEは高齢者の細胞性免疫機能を高め、あらゆる原因で早死にする確率が低いことが明らかになっています。
・ビタミンK (phylloquinone) 天然に存在するのは植物由来のビタミンK1 (フィロキノン)と腸内細菌によって合成されるビタミンK2 (メナキノン)です。抗出血性ビタミンとして発見され、体内合成できませんが、腸内細菌によって腸内で合成させているので、健康な成人では欠乏症を起こすことはまずありません。納豆菌はビタミンK2の合成を活発にします。ビタミンKは、オステオカルシンという骨を構成するたんぱく質の活性化に必要で、骨基質へのカルシウムの沈着を助けて骨の形成を促進します。
水溶性ビタミン ・ビタミンB1(thiamin) 一般名はチアミンで、体内にはほとんど貯蔵されないため、食物から毎日摂取しなければなりません。主な機能は、アミノ酸、脂肪、糖質をエネルギーに変換することです。とくに糖質の代謝に必須のビタミンであり、過剰な糖質を脂肪に変換します。アルコールや糖質の過剰摂取は、ビタミンB1の消耗が激しく、摂取エネルギーが多いほど必要量も多くなります。ビタミンB1は調理した水や煮汁の中に失われやすく、また、アノイリナーゼという酵素によって分解(破壊)を受けるため、腸内にアノイリナーゼ菌をもっている者は欠乏症を起こしやすくなります。
糖尿病の場合には、エネルギー源であるグルコース(ブドウ糖)が不足して細胞が飢餓状態となると、ビタミンB1が余計に必要になります。多くの糖尿病性神経障害の患者では、潜在性ビタミンB1欠乏症がみられます。
※アノイリナーゼ ビタミンB1の分解酵素で、淡水魚、ワラビ、ゼンマイなどにも含まれています。
栄養素の種類 糖質
(3) 糖質(saccharide、炭水化物という意味でcarbohydrate)
糖質は生体において、エネルギーの貯蔵物質として重要な役割を果たしごいます。糖質には単糖類、少糖類、多糖類などの種類があります。主に植物性食品中に多く含まれ、小麦、米、そばなどの主食から摂取します。炭水化物という名称で呼ばれることもあります。炭水化物はエネルギー源になる糖質とほとんどエネルギーにならない食物繊維を合わせた表現です。
少糖類の中で栄養学的に最も重要なのは二糖類です。二糖類は次の3つに分類され、次のように構成されています。 ・ショ糖=ブドウ糖+果糖 ・麦芽糖=ブドウ糖+ブドウ糖 ・乳糖=ブドウ糖+ガラクトース
血糖が上昇すれば、それにともなって、インスリン分泌も促され、トリグリセリドをどんどん脂肪細胞に蓄えるので、インスリン分泌が多いと肥満の原因になります。なお、多糖類は分子量が大きいため、ゆっくりと消化されて少しずつエネルギーに変わるので、急激に血糖を上げることがありません。 1g当たり4kcalのエネルギーを産生します。
糖質の代謝 ヒトは米、小麦などの穀類や、いも類から多糖類であるでんぷんを摂取し、砂糖や清涼飲料水などからも多くの糖質を摂取しています。糖質の主な役割はエネルギー源であり、必要エネルギーの60%程度を供給しています。ところが人体内に存在する糖質の量は約0.1%程度であり、その大部分が肝臓(最大5~8%)および筋肉中のグリコーゲン(0.5~1%)、血糖(3~4%)として存在し、その他は核酸成分の形で存在します。体内存在量は、基礎代謝量にも満たない程度に過ぎません。哺乳動物では摂取した糖質のうち直接エネルギーとして利用されるのは、その半分以下で、糖質のかなりの部分は脂質に変換されてエネルギーとして利用されます。なお、絶食や飢餓の場合には、たんぱく質からの糖新生もみられます。
糖質代謝の種類
嫌気的解糖 → 酸素供給がないとき乳酸を生じる 好気的解糖 → グリコーゲンおよびグルコースの完全酸化により、CO2(二酸化炭素)とH2O(水)を生じる ヒトは食物中の糖質の98%を消化・吸収します。小腸で吸収されたグルコースは、門脈によって肝臓に運ばれて大部分がグリコーゲンに変化し、その一部は血糖として血液中へ放出され、各組織に取り込まれます。また、フルトース(果糖)やガラクトースは、肝臓でグリコーゲンに変換されるものが多く、そのまま血液中に出てくるのは極めて少量です。でんぷんは唾液中のアミラーゼによって加水分解を受け、デキストリンを経て一部はマルトース(麦芽糖)になります。
二糖類の大部分は、そのまま小腸粘膜の上皮細胞の表面にある絨毛表面から中に入り、そこにある消化酵素によって分解を受け単糖類となって、細胞を通過して、血中に入ります。肝グリコーゲンは必要に応じてグルコース(ブドウ糖)に変化して血液中に放出されるので、空腹時でも血糖はなくなりません。筋グリコ―ゲンは筋肉のエネルギー源として使われ、グルコースとなって血液中に出ていくことはありません。
※単糖類 加水分解しても、それ以上簡単な糖に分解しない糖類。ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース、マンノースなどがあります。
※少糖類 単糖が2~10個くらい結合した炭水化物であり、栄養学的には二糖類が最も重要。
※多糖類 でんぷんやセルロース、グリコーゲンなど、加水分解によって、単糖が多数生じる高分子の炭水化物であり、一般に単糖が20個以上結合して、つくられている。
※二糖類 単糖が2つ結合したもので、ショ糖(スクロース)、麦芽糖、(マルトース)、乳糖(ラクトース)などがあります。
※グリコーゲン ブドウ糖の重合物で、筋肉や肝臓に蓄えられている多糖類です。
※基礎代謝量 外気温、食物摂取状態、仕事やスポーツなど、環境や生活状態によって変動する外的要因を除いた、安静時のエネルギー代謝量のこと。基礎代謝は1日の総エネルギー消費量の約60%を占め、性、年齢、体格、栄養状態、日常の身体活動状態によって異なる。
※門脈 腹腔内の消化管からの血液を集めて肝臓に送る静脈。
※デキストリン でんぷんを酸またはアミラーゼで加水分解するときに生じる中間生成物。
栄養素の種類 脂質
(2) 脂質(lipids、脂肪という意味でfats) 水には溶けず、有機溶剤に溶ける生体成分の総称です。動植物界に広く分布していますが、とくに、動物の筋肉や皮下組織に多く含まれます。植物界では、主に種子に多く含まれています。脂質は脂肪と非脂肪とに大別されます。脂質は、脂肪、非脂肪それぞれに食品の栄養成分・嗜好成分として大切ですが、そのなかで、脂質の代表とみなされるのが脂肪です。このように、脂質という言葉の中には脂肪も含まれますが、脂肪ではない脂質(非脂肪)も存在します。
脂質は、単純脂質、複合脂質、誘導脂質(複合脂質と誘導脂質は非脂肪)に分類されます。なお、脂肪中における脂肪酸の割合は約90~96%を占めます。脂肪酸は脂肪成分の重要部分を構成していますが、その一部が加水分解されて、遊離脂肪酸として油脂の中に存在します。1g当たり9kcalのエネルギーを産生します。
脂肪酸 脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があり、次のように分類されています。 ・飽和脂肪酸→炭素の二重結合がない。 ・不飽和脂肪酸→炭素の二重結合がある。 ・一価不飽和脂肪酸→炭素の二重結合が1つある。 ・多価不飽和脂肪酸→炭素の二重結合が2つ以上ある。
脂質の役割 ・エネルギー源およびエネルギーの貯蓄 ・細胞膜の成分(血球、組織臓器の形態、生理機能維持) ・種種のステロイドホルモン、胆汁酸の素材 ・脂溶性ビタミンの腸管吸収の促進 ・EPAやDHAには血栓生成の抑制作用が存在 ・コレステロール低下作用を示す脂肪酸の存在
※ステロイドホルモン ステロイド核と呼ばれている構造を持つホルモンの総称。副腎皮質と生殖腺(精巣、卵巣、胎盤)を合成。
※有機溶剤 シンナー、トルエン、ベンゼン、エ-テル、クロロホルム、キシレンなどの物質。
※種子 ゴマ、菜種、とうもろこし、綿実、紅花など、植物油の原料となる植物。
※単純脂質 加水分解により、脂肪酸、グリセリン、アルコールが生じる脂質で、グリセリドやロウなどがあります。
※複合脂質 リンや窒素などを含んだ複雑な脂質で、加水分解により脂肪酸、グリセリン、アルコール以外の物質が生じる。リン脂質や糖脂質などがあります。
※誘導脂質 単純脂質および複合脂質の分解過程で、分子構造が変化したもの。
※加水分解 大きな生体内分子の結合に、水の分子が付加されることにより、より小さな分子に分解される反応のこと。
食物として摂取された脂質は血中に入り、糖質代謝によるエネルギー供給が十分な場合には脂肪組織に運ばれてトリグリセリドの形で蓄えられます。一方、エネルギーが不十分な場合には脂肪酸の消費を促進させます。
必須脂肪酸の代謝はn-3系列とn-6系列があり、それぞれ別々に代謝されていき相互互換はできません。食物中に含まれる通常の脂肪は長鎖脂肪ですが、中鎖脂肪と呼ばれる脂肪酸は胆汁や膵リパーゼの作用がなくても吸収できるため病人用の栄養剤にも利用されています。 ・α-リノレン酸 → EPA → DHA (n-3系列) ・リノール酸→γ-リノレン酸→アラキドン酸(n-6系列)
栄養素の種類 たんぱく質
5種類の栄養素
栄養を左右する物質である栄養素は大きく分類すると、たんぱく質、脂質(脂肪)、糖質(炭水化物)、ビタミン、ミネラル(無機質)の5種類しかありません。これを5大栄養素と呼びます。ミネラル以外はすべて炭素、水素、酸素を含む有機化合物です。
(1) たんぱく質(Protein)
ヒトをはじめとして、植物や動物の体はすべてたんぱく質で造られています。たんぱく質は、単純たんぱく質、複合たんぱく質、誘導たんぱく質の3種類に分類されています。どのたんぱく質も窒素を平均16%程度含んでいるのが大きな特徴です。
すべてのアミノ酸という物質が、ペプチド結合という分子の結びつきで構成されています。自然界の中から発見されたアミノ酸は300種類以上が存在しますが、人体を構成しているアミノ酸は20種類程度です。
これらのアミノ酸全体のことををアミノ酸プールといいます。病気になるとアミノ酸プールがバランスを崩して、それぞれの病気に固有のアミノ酸パターンを示します。約20種類のアミノ酸のうち、9種類のアミノ酸は、体内では十分に合成できないので、必ず食物などから摂取しなければ健康な生命維持活動を営むことができません。
この9種類を必須アミノ酸と呼んでいます。たんぱく質は1gあたり4kcalのエネルギーを産生します。たんぱく質がいくら重要であっても、体の中で出来上がったものが減少しなければ食物から補う必要はありません。ところが、細胞の中では絶えずたんぱく質の合成と分解(代謝回転)が繰り返されているので外部から供給する(食べる)必要があるのです。健康な成人のたんぱく質の1日当たりの正常な代謝回転は、体たんぱく質全体の1~2%に相当します。
※べプチド結合 たんぱく質の構造の主要な結合様式で、2つのアミノ酸の一方のアミノ基(-NH)と、他方のカルボキシル基(-COOH)とが水分子を失ってできた結合のこと。
※20種類のアミノ酸 9種類の必須アミノ酸のほかに、グリシン、アラニン、プロリン、セリン、システイン、アスパラギン酸。アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギーン、チロシンの11種類がある。
たんぱく質の消化と吸収
胃でペプシノーゲンという物質が分泌され、塩酸により活性化されて、ペプシンという消化酵素になります。ペプシンのたんぱく質分解活性はそれほど強いものではなく、小腸に送られ膠液の作用を受け、本格的な消化が始まります。
多くはトリペプチド、ジペプチドの形で吸収されますが、小腸管腔内から小腸粘膜微絨毛膜に移行したペプチド類は、そこに存在する消化酵素により分解され、最終的にはアミノ酸となって吸収されるものもあります。腸管から吸収されたアミノ酸がそのままの形で、アラニシだけは肝臓に取り込まれて糖新生を行い、グルコースに変換されて、再び血中に放出されます。
※糖新生 糖質以外の栄養素からブドウ糖が生合成されること。
栄養と栄養素
普段なにげなく「栄養」という言葉を使っていますが、これは、実は栄養素のことを言っていることが多いようです。「栄養」という言葉と「栄養素」という言葉は全く意味が異なります。
栄養とは、食物を摂取し、食物に含まれる物質の働きによって、日常の生活活動に必要なエネルギーの産生や体組織の構成・補充などを円滑に行い、体内に不必要な物質を排泄するまでの一環した現象のことをいいます。
このように「栄養」とは生命現象の根幹をなす概念であり、これらの栄養現象に関与する物質を「栄養素」と呼んでいます。英語では、栄養のことをnutritionといい、栄養素のことをnutrientといいます。よく、一般的に牛乳には栄養があるとか、肉や卵には栄養があるという言い方をしますが、この言葉の使い方は実は間違いで、正しくは栄養価が高いとか、○○という栄養素が多いと言うべきなのです。
つまり、牛乳にも肉にも卵にも「栄養」はないのです。含まれているものとは、たんぱく質やビタミンなどの栄養素です。たとえば、牛乳を飲むと下痢をする人がいますが、この人にとって牛乳は下痢を起こす飲み物であり、決して栄養にはなりません。牛乳を飲んで栄養になる人がいる一方で、牛乳が栄養にならない人もいることになります。
また、肉食中心で動物性脂肪を大量に摂取し、血液中のコレステロールが増えている人にとっては、肉よりも食物繊維を多く含む野菜や海藻、植物油を摂った方が栄養状態の改善には望ましいということになります。
身体の水分量と体重測定について
(1)身体の水分量
成人では水は、身体の約60%を占めています。そのうち細胞内には約40%血液などの細胞の外には約20%存在します。年齢では、乳児では、約75%と身体に占める割合がもっとも高く、加齢とともに減少します。高齢者では、身体の水分量は約55%であり、高齢者は脳の視床下部にある口渇中枢が鈍感になっているため、水分摂取を控える傾向があり、脱水になりやすい。
(2) 体重測定
体重は決まった時間に測るのが良い。理想は、朝起きて排尿後の食前に測るのが良いです。食事量などに影響されていないためです。
たんぱく質・エネルギー低栄養状態の治療と予防
たんぱく質・エネルギー低栄養状態の治療と予防のポイントです。
(1) 1日3食きちんと食べましょう。 1日3食が基本です。食欲がないときは、間食や自分の好きなものを食べるなどの工夫をしましょう。食べないでいると、摂取カロリーも減って体重も減少します。
(2) 栄養素のバランスをとりましょう。 エネルギー源であるご飯、パンや麺類などの主食や、たんぱく質源である肉、魚介、卵、大豆製品のおかず(主菜)を揃えて食べましょう。また、乳製品・果物などを間食でとる工夫をしましよう。1食ずつではなく、1日単位でバランスがとれるように考えましょう。
(3) 生活リズムを整えて適度に身体を動かしましょう。 起床・就寝の時間、食事時間を一定にすることが大事です。1日の生活サイクルをきちんと送ると、胃腸の機能を整え、食欲増進につながり、低栄養・老化予防に役立ちます。また、外出やウォーキングやストレッチするなど積極的に身体を動かすと自然にお腹も空いてきます。
(4) 水分補給を積極的にしましょう。 加齢とともに身体の水分量が減少します。また、喉の渇きを感じにくくなり、脱水症状を起こしやすくなります。水分を補給しないと、元気がなくなり、血液が濃くなり脳梗塞などの引き金になることがあります。1日1~1.5Lを目安に水やお茶で少しずつ補給しましょう。
(5) 体重測定を定期的に行いましょう。 体重は健康のバロメーターです。定期的(週に1~2回程度)に体重を測り、知らないうちに体重が減っていないかチェックしましょう。
たんぱく質・エネルギー低栄養状態の基礎知識
たんぱく質・エネルギー低栄養状態とは
必要な量のたんぱく質とエネルギーがとられていない低栄養状態をPEM(ペム)といいます。PEMはたんぱく質とエネルギーが不足していると同時に、ビタミンやミネラルなど各種の栄養素も不足している状態です。
(1) PEMの原因 ・口の中に問題がある。(義歯の不具合など) ・摂食・嚥下の問題、病気(治療による食欲不振や疾患による痛みなど)などで食べられない。 ・身近な人の不幸で気持ちが落ち込む ・料理をする、買い物に行く気になれない。 上記の原因で栄養素が不足すると、生命を維持するために脂肪や筋肉を分解します。その低栄養状態が続くとさまざまな問題を引き起こします。
(2) PEMの問題 低栄養状態が続くと、さまざまな問題が発生します。 ・体重が減少して、体力が低下する。 ・免疫力が低下して、感染症にかかりやすくなる。 ・疾患がより重症化して、合併症が起こりやすくなる。